【オールグリーン】

 

今日は、誕生日さ、ボクの。

卒業してから、もう半年も過ぎちゃったんだ、早いもんだよ。

お祝いなんてもったいないから、良いっていうのに、

キミは、わざわざ休みまで取っちゃって。

でも実はとっても嬉しいんだ、ボク。

 

プップー!

 

あれれ?表から音が聞こえてきたけど、何だろ一体?

 

先々月から、一日も休まず働いてくれたからって、このあいだ

おじちゃんに多めにお給料を貰ったから、この日の為に

少しおめかししていたボクは、準備も済んでいなかったけど

謎の音を確かめに外に出る。

 

ボクを見つけたキミは、パワーウィンドウを開く。

「茜、もう時間だよ!」

 

呆気にとられていたけど、ボクはやっとのことで声を出す。

「ど、どうしたんだい、キミ、その車は?」

 

ボクの様子がおかしいのか、キミはクスクス笑う。

「ああ、ちょっとレンタルしてきたんだ。」

 

「レンタルだって?そこまでする事ないのに・・・」

何で?と、咎めているのを感じ取ったのか、キミはすぐ、

「まあ、レンタルって言っても親の車だからさ。」

 

「そ、そうかい?でも大丈夫なのかい?」

訊きながらも、ボクは、少し安心した。

 

そうしてキミも、今日の用事を思い出したように、

「ああ。それより、もう出発しないか?時間がもったいないよ。」

 

「今すぐ仕度するからさ、少し待っててくれないかな?」

 

答えを待たずに、家の中に引っ込むと、お気に入りの髪どめを

素早く着けた。あまりお洒落とかに気をかけられない、

ボクでも唯一、これだけはね・・・。

 

玄関で、トントンとスニーカーを履いて、キミに声をかける。

 

「さあ行こうか。それで今日はどこに連れて行ってくれるんだい?」

 

☆☆☆

 

ザザーン・・・

 

「海かぁ。この夏は、来ている時間無かったからね、お互いさ。」

夏の間、休日を返上して、大衆食堂で働いていた事をさっきまで

どこかにやっていたんだけど・・・。

 

「忙しかったからなぁ。今年も二人で来たかったんだけどなぁ。」

同調するように、キミも・・・。

 

楽しい気持ちを取り戻さなきゃ、キミに、そしてボクに・・・

「ぼやかない、ぼやかない。泳ぐなら室内プールでも良い訳だし。」

 

「・・・・・・。」

少し照れたようなキミ。

 

「でも、新しい水着、今年は買わなかったからなぁ、ボク。」

 

「・・・・・・。」

少し残念そうなキミ。

 

「どうかしたかい?」

わざと訊いてみたりする。

 

「あ、いや、何でもない。」

悟られたくないって感じでそっぽを向く、キミ。

 

正式に付き合うようになって半年。いつもは強くて優しいキミ。

だけど、わかってきた、こんな時どう反応するのか。

 

「そろそろお昼時だね・・・」

わざと別の話を切り出して・・・困らせないように、キミを。

 

「ああ。じゃ、車に乗って。」

 

だけど、ちょっとげんなり気味のボク。

「どれくらいかかるんだい、今度は?」

 

「30分くらいのはず。そう嫌な顔しないで欲しいなぁ。」

 

海まで来るのに散々渋滞に、はまったんだよ。

免許とりたてだから、抜け道なんて当然知らない訳だし・・・

 

と言っても、ここにいても何が変わるわけじゃないから

「わかったよ。出発しよ。」

 

☆☆☆

 

昼食は結局、倍の1時間かかって着いて、その後、山へ向かう。

なかなか休みが取れないと、一日にいっぱい詰め込んじゃうよね。

 

そして、楽しい時を過ごして、もう夕方になる。

「さあ、そろそろ帰ろっか?」

 

「そうだな。じゃ、車に乗って。」

 

嫌な予感が駆け巡る。

「どこか食べに行くのかい。もうごめんだよ渋滞は、ボク。」

 

「でもせっかくここまで来たんだしさ。」

そう言いつつ、疲れた顔を見せる、キミ。

 

「いいから帰ろう、うちでお兄ちゃんも待ってるしさ。」

 

”お兄ちゃん”という一言で、参りましたという表情になり

「わかった。帰ろう。」

 

ごめん、ごめん。でもね・・・

「誕生日だけどさ、ボクの。でも食べて欲しいんだ、ボクの料理。」

 

キミは心配そうに

「でも、今から準備じゃ・・・」

 

とっておきの事を話すんだよと言う感じで・・・

「下ごしらえは、今朝出発前に済ませておいたんだよ、ボク。」

 

「そうだったんだ。でも朝早かったから大変じゃなかった?」

 

キミはあくまで、ボクを心配してくれるんだね。

だから大丈夫だよって・・・

「その辺は、伊達に食堂勤めはしてないって事さ。」

 

そうして、キミは張り切る。

「じゃあ、一刻も早く、一文字家の食卓へ着かないとね。」

 

「走れれば良いのに、赤信号になるべく引っかからないように。」

さも当然な話を続けると・・・

「前にテレビでやってたなぁ。」

思い出す、キミ。

 

「何の事さ?」

赤信号で止まり、キミの顔を見ながら訊く。

 

キミも一瞬見る、ボクの方を・・・

「海外ではある一定速度で走ると

 信号に引っかからないというシステムがあるんだってさ。

 確か、グリーンウェーブシステムとか・・・」

 

向き合ってちょっと照れて、前へ視線を戻して

「へええ、何で採用されないんだろうね、この辺りでもさ。」

 

「・・・・・・。」

ふっと押し黙る、キミ。

 

「急に黙っちゃったけど、どうかしたのかい?」

 

懐かしむようにキミは、

「いや去年もさ、立て続けに赤信号で止まらせられたなぁってさ。」

 

「何の事、言ってるんだい?」

わからなかった、一瞬、ボクには。

 

キミが切り出す。

「四天王やお兄さんと戦ったことが有っただろう。」

 

「そう言えば、昨年の9月5日だったっけ、お兄ちゃんと・・・?」

 

「ああ。最大の赤信号だったなぁ。」

 

首を振る。そうしてボクは、

「いいかい、良く聴いてくれよ、キミ。

 赤信号なんて、キミとボクの間に、かつて存在した事も

 そしてこれから存在する事も無いんだよ。

 ずっと、オールグリーンなんだから、心が繋がっている限り。

 キミとボクの心がさ。」

 

「・・・・・・。」

びっくりして、沈黙するキミ。

 

「オールグリーン、あの『ままごと』から、ずうっとさ。

 少なくても、そう思っていたんだよ、ボクは。」

震えている、声が、ボクが。

 

青信号になり・・・

「オールグリーン、すぐにかえれる。」

キミは、車を走らせた。

 

そして・・・そして・・・そして、

ブレーキランプは着かない、キミとボクの二人には。

いつだってオールグリーンなのだから・・・。