ある夏の日のこと。

 

海辺の町にある、小さな駅舎。

いや、すでにこの路線は廃線となっているから、元駅舎と言った方が正しいであろう。

 

その駅舎の前の広場に、一人の小さな少女の姿があった。

 

彼女の名前は「みちる」

 

歳は、見かけで11歳くらいであろうか?

腰まで伸びる長い髪の毛を、二つに束ねている。

そして、勝ち気な感じのする、表情,仕草。

それが、みちるの第一印象である。

 

みちるは、炎天下の広場で、先ほどから、あるものと格闘していた。

 

「ふぅ〜…」

 

みちるが、くわえたストローに息を吹き込むと、ストローの先端から、七色に輝く

小さなシャボン玉が現れた。

 

「ふぅ〜〜〜…」

 

さらに息を送り込むと、シャボン玉は、どんどん膨らんでいく。

 

しかし…

 

ぱちんっ。

 

「わぷっ」

 

吹き込んだ息の圧力に負けたように、シャボン玉は、宙に飛び立つことなく、そのまま

みちるの鼻先で割れてしまった。

 

「んにゅぅ〜」

 

石鹸水を、マトモに顔に浴びてしまった。

これで、さっきから何回失敗してしまっただろうか?

 

みちるの顔は、飛ばなかったシャボン玉の数だけ石鹸水を浴びてしまい、てかてかしている。

 

「…美凪は、優しく息を吹けば、上手にシャボン玉ができるって言ってたけど…

 こんな風にすればいいのかなぁ〜」

 

親友のアドバイスを思いだし、今度は、優しく息を吹いてみる。

 

「ほわ〜」

 

ゆらゆら

 

「ほわ〜、ほわ〜」

 

ゆらゆらゆら

 

「ほわ〜、ほわ〜、ほわ〜」

 

ゆらゆらゆらゆら…

 

と、腰をくねらせながら、みちるなりに、優しく息を吹き付ける。

 

すると、それに反応するように、ストローの先端から、ぷくぅ〜っと、シャボン玉が顔をのぞかせた。

 

「ほわ〜、ほわ〜… ほわほわほわほわ…」

 

ぱちんっ。

 

「わぷぷっ」

 

最後の最後で、みちるは、また息を強く吹いてしまい、せっかく飛び立とうとしたシャボン玉は

無惨にも、破裂してしまった。

 

「うにゅ〜 どうしても、うまくいかない…」

 

みちるが、がっくりと肩を落として、そう呟いたとき…

 

「きもちわるい、踊りをするヤツなのだ!」

 

と、みちるの背後で、声が聞こえた。

 

 

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LittleWing120000HIT&田村ゆかり様「AIR」出演決定記念寄稿

『ちるちるメイ様』

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「にょわっ? ゆうかいま??」

 

あわてて、声のした方向を振り向く。

 

すると、そこには…

この季節、この場所で、場違いとしか思えないような、フリルのドレスを着た、5,6歳くらいの

小さな女の子が、立ってみちるを見つめていた。

 

「その踊りは、新手の暗黒舞踏なのか? ほわ〜、ほわ〜、ほわ〜で、ゆらゆらゆら…

 面白いヤツなのだ」

 

いきなり、人を食ったような生意気な口調で、みちるを挑発する。

 

「うぐぐ… こんなど田舎で、そんな、みょうちくりんな格好で、うろついてるヤツに、そんなこと

 言われたくないわーっ!」

 

「せっかくだから、白い全身タイツを着て、顔に白粉を塗ってやるのだ。

 絶対に似合うと思うぞ?」

 

「人の話を聞けぇぇぇーーー!!」

 

「…暑いのに、ご苦労なヤツなのだ」

 

そういって、大げさに肩をすぼめて、両手でゼスチャーしてみせる。

みちるは、この、浮世離れした格好の女の子に、ずかずかと歩み寄ると

 

「ぽかっ☆」

 

と、グーで、女の子の頭を叩いた。

 

「い、イタイ! 何をするのだ! 下賎な庶民の分際で!」

 

涙目で、うらめしそうに、みちるを睨む。

 

「いきなり現れて、みちるを挑発するようなことばっかり、言うからだぁーーー!!

 だいたい、おまえは誰なんだ、名を名乗れ!!」

 

そう、みちるが、詰問するように聞くと、女の子は、ちょっと得意げな顔になって

 

「知りたいのか? 知ったら、びっくりして、おしっこちびっちゃうかもしれないぞ?」

「いいから、早く名前をなのれーーーっ!」

「漏らしてもいいように、替えのぱんつを用意しておくのだ」

「余計な心配するなーーーっ!」

「まったく、ゆとりというものがないのぅ… これだから庶民は…

 それでは、名を名乗ってやるのだ! 耳の穴かっぽじって、よく聞くのだ!!」

「なんだ早乙女好雄か…」

「ほーら、観鈴ちんをほっといたせいで、爆弾マークがついているのだ。このままだと、

 8月14日にはゴール爆弾が…って、違うのだっ!!!!!」

「ノリのいいやつ…」

「オマエが話の腰を折るからだぁぁぁーーー!!

 とにかく、最後まで聞くのだ!!!!」

 

女の子は、そう言うと、コホン…っと、軽く咳払いをして、再び不敵な笑みを、みちるに向ける。

 

「それでは、名を名乗ってやるのだ。

 日本の…いや、世界有数の超巨大財閥、伊集院財閥の令嬢『伊集院メイ』なのだ!!!

 どうだ? ちびったか?」

 

大きく胸を反らして、えっへん。といった感じで自己紹介をする。

そして、メイは、ちらりとみちるを見ると…

 

「ふぅ〜…」

 

ぱちんっ。

 

「わぷぷっ」

 

メイのことなど、眼中から消えたように、シャボン玉遊びを続けていた。

 

「メイのことを、無視するなぁぁぁ!!!!」

 

メイが、そう言って、ずかずかとみちるに詰め寄ると、みちるは、同情の眼差しをメイに向け

 

「ここんとこ、暑かったからなぁ…」

「おのれ、メイを変な人扱いしたなぁーーーー!! 伊集院財閥を何だと思っているのだ!」

「そんなの知らないーーーっ。べろべろべーーー」

「め、メイをバカにするなっ!! 知らない筈がないのだ!!!」

「ああ… そういえば、そんなの、あったような気がする。『はわわ… ご主人様ぁ〜』とか話す

 メイドロボを作っているとこだったけ?」

「その財閥は違うのだ!!!」

「じゃあ、世界征服ロボを作っているところか?」

「あれは、個人サークルで作っているのだ! 伊集院とは関係ないのだ!!」

「おおっ! 先行者を作っているところだっ! すると伊集院メイも、中華キャノンが撃てるのか?」

「ロボットから離れるのだぁぁぁ〜〜〜!!」

「からかうと面白いヤツだ…」

「オマエに、言われたくなーーーーーいっ!!」

 

みちるに、思いっきり弄ばれたメイは「く、くやしいのだぁぁーーー!」と、顔を真っ赤にして

地団駄を踏んだ。

 

先ほどまで、メイがリードしていたというのに、いつの間にやら、

みちるのペースになってしまっている。

このことが、メイにとっては、かなり屈辱的なことであるようである。

 

しかも、伊集院財閥と聞けば、たいていの人間なら、畏敬の念か、

やっかみ半分な顔をして、接してくるというのに、

みちるは、まるでその辺の石ころみたいに受け流している。

 

この、田舎娘に、ぎゃふんと言わせるには、単に自分の素性を明かすだけではダメだ。

やはり、庶民には真似のできない、メイの驚異的かつ貴族的な能力を披露して、

「うにゅぅ…参ったぁ〜」と言わせるのが一番だ。

などと、みちるを、ひざまずかせる方法を考えていたとき。

 

みちるが手にしている、シャボン玉液と、ストローが目についた。

 

☆☆☆

 

メイが、ジト目で、じーっと、みちるのシャボン玉液と、ストローを見つめている。

 

「にょわっ? なにっ?」

 

みちるが、そのことに気づいて、聞き返してみる。

すると、メイは、突然、何かがひらめいたように、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

そして…

 

「オマエ、シャボン玉が、へたっぴなのだ」

「な、なにをいうかぁ!!!」

 

メイの挑発に、みちるが、悲しいほど見事にのってきた。

 

「さっきから見てたが、一回もシャボン玉が飛ばなかったのだ。

 こんな簡単なこともできないのか?」

「ううぅ… 伊集院メイ。だまれーーーーーっ」

「メイなら、こんなの簡単にできるのだ。悔しいだろう〜?」

「うぬぬぬぬ… そんなに言うなら、やってみろーーーっ」

 

そういって、みちるは、手に持っていた、シャボン玉液とストローを、さっと、メイの前に差し出した。

 

「こんなの、メイには朝飯前なのだ」

 

勝ち誇ったように、メイはそれを受け取ると、早速、ストローをシャボン玉液に浸して、そして

ストローを口に含くわえた。

 

「ずずずず…」

 

なにやら、吸い込むような音が聞こえたかと思うと、突然、メイの表情が真っ青になり、

「ぶふぁっ!!」と口の中から、何かを吐き出した。

 

「ぺっ、ぺっ… 不味いのだ…」

「にょわっ! 今、飲んだのか?」

「さっき飲んだ、どろり濃厚ピーチ味より、凄い味がしたぞ!! 庶民はこんなのを飲むのか?」

「…ひょっとして、伊集院メイは、シャボン玉やるの初めてなのか?」

「なに? シャボン玉とは、これを飲んでから、吹くものではないのか??」

「……………」

「その、哀れむような目で、メイを見るなーーーっ!!

 い、今のは、ちょっとした勘違いなのだ!! これから、びっくりするほど、

 いっぱいシャボン玉を飛ばすのだ!!」

 

そして、メイは再び、ストローをシャボン玉液に浸して口にくわえる。

 

「ぶうううううーーーーーーっ!! ぶううううううううーーーーーーーっ!!!」

 

これでもか! というほど強くストローに息を送る。

そのせいで、ストローの先端から、単にシャボン玉液だけが、空しく吹き飛んでいってしまう。

 

その様子を、勝ち誇ったように見ている、みちる。

 

「おおっ! 伊集院メイは、みちるよりヘタだっ」

「う、うるさいのだ!! 今のは練習なのだっ!!」

 

そういって、もう一回、ストローを口にくわえると、さっきと同じように「ぶううううーーーっ!」と

強く息を吹く。

 

しかし、ストローの先端からは、空しく、シャボン玉液が吹く飛ぶだけだった。

 

「こ、このストローは、安物なのだ!!」

「ストローのせいにするなっ」

「ううう… もう一回なのだ!!」

 

「ぶぶぶぶぶーっ!! ぶううーーーっ!!!」

 

「えーーーい! このシャボン玉液が、安物のせいだ!!!」

「シャボン玉液に、安いも高いもなーーいっ!」

「く… ここで諦めたら、伊集院家の威信にかかわるのだ!」

 

「ぶぶぶぶぶぶっ!! ぶぶぅーーー」

 

そんな感じで、必死になってシャボン玉を飛ばそうとする。

しかし、メイが力めば力むほど、シャボン玉は、ストローの先端で生まれることなく消えていった。

 

メイは、みちると同様、悲しいほどに、学習能力というのがなかった…

 

☆☆☆

 

「伊集院メイ。もう、そろそろ、諦めたらどう? もう、夕方だからさ」

 

みちるにそう言われ、メイはふと、あたりを見回す。

 

すでに、太陽は水平線の彼方に沈もうとしていた。

空には、ちらほらと星が瞬き始めている。

 

「それに、シャボン玉液も、なくなったし」

 

確かに、メイが手にしている容器には、たくさん入っていた筈のシャボン玉液が、底に少しだけ

残っている程度であった。

 

「ううぅ… まだまだなのだ!! メイはちゃんと飛ばせるのだ!!」

 

悔しそうに、唸っているメイに、みちるは「挑戦なら、いつでも受けてやるから、今日は

もう帰るのっ!!」と、諭すようにメイに言い放った。

 

「悔しいのだ…」

「それだったら、明日もここに来て、やればいいじゃない?」

「くぅぅ…」

「明日、ここに来ないなら『ふるふる』。来るなら『こくこく』で答えてみ?」

「…こくこく」

「ぷっ! やーい、ひっかかった〜♪

 やっぱり、伊集院メイは、来栖川先輩を意識してるぅぅーーー!!」

「め、メイを、またバカにしたなーーーっ!!」

「悔しかったら、みちるより先に、シャボン玉を飛ばせるようになってみ?

 べろべろべーーーー」

「絶対、オマエより先に、シャボン玉が飛ばせるようになってみせるのだーーーっ!!」

 

みちるとメイの二人は、そう約束を交わすと、日が沈まないうちに、それぞれ、その場所から

別々の道へと歩いていった。

 

 

(第2話につづく…)