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LittleWing130000HIT&田村ゆかり様「AIR」出演決定記念寄稿
『ちるちるメイ様』 最終話(後編)
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「ねえ、あなた。あの子、一体何があったんですか?」
「ん? なんのことだい?」
「旅行から帰ってきてから、なんだか、ふさぎ込むことが多くなったんですよ。
 今日も、ずっと部屋にこもったっきりですし………」
「夏休みの宿題でも、しているんだろう」
「それでも、おかしいんですよ。
 さっきも、お友達が、プールに行こうって誘いにきてくれたのに、あの子
 断っちゃったんですよ。
 いつもなら、宿題なんて放りだして、そのまま出かけちゃうのに………」
「そうなのか?」
「ええ………それで、あなたと旅行中に、何かあったのかって思ったんです。
 やっぱり、あの家に行くのは、良くなかったのかなって……」
「おまえは、やっぱり反対だったのかい?」
「それは… 正直に言えば、あなたやメイが、あの家に行くことには、あまり
 いい気分はしませんよ。
 ただ… それで、あの子の気持ちが落ち着くなら、それもいいかなって
 思いましたから………」
「済まないな。私がしっかりしていないばかりに、おまえには、気苦労かけて
 しまって………」
「それは、いいんです。ただ、あの子が、ふさぎこんでしまったことが
 心配なだけですから………」
「………心配することはないさ。
 あの子はね、今、夢から覚めようとしているところなんだから」
「??? どういう意味ですか?」
「私たちがしてあげられることは、じっと見守ってあげることだけだってことさ。
 だから、今は、夢から覚めるのを、待っててあげようじゃないか」

☆☆☆

メイが、自分の家に戻ってから、数日が過ぎた。

母親が心配するように、メイは、このところ、ずっとふさぎ込んでいる。
ずっと心に引っかかっていることがあって、それが、メイを億劫にさせていた。
だから、一日のほとんどを、自分の部屋で過ごしている。

今日も、朝起きてから、惰性でラジオ体操に参加して、朝食を食べた後は、そのまま
部屋に引きこもってしまった。
途中、友達が遊びに誘いに来ても「行きたくない…」と断った。
あまり、話をしたりする気分になれなかったからだ。

とりあえず、机に向かって、夏休みの宿題を消化させようとしてみる。
漢字の書き取りとか、算数ドリルの計算といった、単調な問題を機械的に埋めていく。
しかし「………は、そのとき何を思ったのか、50文字以内で書きなさい」といった
考えなければならないような問題は、全く書くことができなかった。

宿題に行き詰まると、今度は、部屋の本棚から、少女まんがを取り出して読みふけってみる。
それは、絵の部分を、ぼーっと見ているだけのもの。
シナリオは、全く頭に入っていなかった。

それに飽きると、今度は、お気に入りの、クマのぬいぐるみを抱いてみる。
別に、このぬいぐるみに対して、何も思うことはない。
その間も、メイの心は、一つのことを思い続けていた。

美凪のこと…… そして、みちるのこと………
二人のことを思いながら、メイは、一日を過ごしていた。

そして、その日の夜。

夕食をとり、お風呂に入り、そして「おやすみなさいなのだ」と、居間でテレビを
見ていた両親に、そう告げる。

「ん? まだ8時前じゃないか。これから、おまえの好きなテレビが始まるよ」
メイの父親が、のんきに、そう言う。
「うん… メイは眠いから、いいのだ」
「そうか… それじゃ、おやすみ」

メイの心情を察してか、メイの父親は、そのまま、おやすみと言って、また
テレビの画面に向き直った。
それを見届けると、メイは自室へと戻って、そのまま、ベットにもぐり込んだ。

暗い天井を見つめながら、いつものように、美凪やみちるのことを思い浮かべながら
自分はどうすればよいのかということに、思いを巡らす。
しかし、これといった答えが見つからないまま、そのうち、眠りについていった。

☆☆☆

「………伊集院メイ」

夢の中で、誰かが、自分を呼んでいる。
声の主は、12歳くらいの、女の子の声だ。
そう… まるで………

「………起きろってば!」

まるで、みちるみたいだ。
それでは、この声は、夢の中で自分が再生しているものだ。
一日中、みちるのことを思っているせいか、とうとう夢の中にまで、リアルに現れて
きたようだ。
まどろみの中、メイは、そんな風に思っていると………

「伊集院メイ! 起きろっ!!」
と、今度はメイの身体の上に、どんっと、何かが乗っかった。

「な、なんなのだ?」

びっくりして目を覚ますと、そこには、にこにこと、いたずらっぽく笑っている
みちるが居た。

「!!!!!」

突然のことに、声も出せずにいるメイに、みちるは「にゃはは」と笑うと
「久しぶりだねぇー 伊集院メイ」
と、楽しそうに微笑んだ。

「な、な、なっ! なんで、みちるが、ここに居るのだぁ!!」

やっと、驚きの声が出せたメイに、みちるは
「うに? なんでって、みちるは、遊びにきただけだよ♪」
と、悪びれる様子もなく言った。

「遊びにきたって… こんな夜にか?」
「そうだよ。ほら…この前約束した、シャボン玉。これで一緒に遊ぼう?」
「え? えっと………?」
「ほらっ! 早く早くっ!」

何が起こったのか、混乱して、あたふたとしているメイの手を取り、ベットから
引っ張り出す。
そして、みちるは、部屋のサッシを開けると、メイを引っ張り出すように、二人で
家の庭へと出ていった。

もう、かなり遅い時間なのだろうか、家々の窓からは明かりが消え、みんな深い
眠りについているようである。
家の塀越しにある街灯と、満月の明かりが、メイとみちるの姿を、うっすらと
照らし出していた。

「それじゃさ… 伊集院メイからやってみて」

そう言って、みちるは、メイに、シャボン玉液とストローを渡した。
「め、メイがこれをやるのか?」
「そうだよ」
「し、しかしだな………」
「うに? 伊集院メイは、相変わらず、シャボン玉が出来ないのか?
 この間は、簡単なのだぁ〜とか、言ってたのにね? にゃははっ!」

みちるが、挑発的にメイをけしかけると、メイは
「こ、こんなの、簡単にできるのだぁ!!!」
と、ストローに口をつけて、思いきり息を吹き付けた。

「ぶうううううっ!!! ぶぅ! ぶぅ!!!」

やはり、前と同じように、ストローの先端からは、シャボン玉液が勢いよく飛んで
いくだけで、全くシャボン玉は出来上がらない。

「にゃはは!! 全然飛ばないね」
「う、うるさいのだ!!!」

もう一度、シャボン玉液にストローを浸して、口にくわえる。
「ぶぶぅ!! ぶーーーっ! ぶううーーーーーっ!!」

「伊集院メイ、だから、ほわほわ〜って、優しく吹かないと………」
「お、おのれっ! そういうキサマだって、下手っぴなくせにっ!!」
と、みちるに、負け惜しみを言ってみた。

すると、みちるは笑顔で「うにゅ? みちるは、簡単にできるよ」と答えた。

「う、嘘をつくななのだっ! この間だって………」
「本当だよ」

そう言いながら、みちるは、メイからストローを受け取る。

そして、ストローをシャボン玉液に、2,3回、軽く浸して、それを口にくわえる。

「ふぅ…」

すると…ストローの先端から、いくつものシャボン玉が、ふわふわと空へ舞い上がった。

「!!! うわーっ………」

メイが、目を丸くして、それらの光景を見つめている。
みちるの周りには、いくつものシャボン玉が浮いていた。
月明かりの中、そのシャボン玉が、生まれては消え、生まれては消え…
それが、みちるの姿と重なると、なんだか、とても幻想的な世界を見ているような気がした。

「きれいなのだ………」
メイは、感じた気持ちのまま、素直にそう呟いた。

「にゃはは。伊集院メイも、ちゃんとシャボン玉、できるようになるよ」
「本当か? メイも、キサマみたいに、いっぱい、いーっぱい、シャボン玉飛ばせるように
 なるのか?」
「うん。みちるもね… やり方が分かったら、とっても簡単に、飛ばせるように
 なったんだよ。だから、伊集院メイも、すぐにできるようになるよ」
「やり方って?」
「それはね、素直になることだよ。
 そうすればね……… シャボン玉になって飛んでいくんだよ」
「ううぅ……… なんか難しいのだ」
「難しいことなんて、何にもないよ」

みちるは、手に持っていたストローを、メイに返した。
「もう一回、やってみるといいよ」
「うまく飛ばせるのかなぁ………」
「すぐにできるよ。
 だから、シャボン玉できるまで、みちるが、ずっと見てるからさ」
「うん………」
「それで……… メイがシャボン玉、ちゃんと飛ばせたら………
 ばいばいしよう」

☆☆☆

メイは、はっとして、みちるの顔を見つめた。

「いま……… なんと言ったのだ?」

驚いた表情で、メイはみちるを見つめた。
それに対して、みちるは笑顔のまま。
しかし、その笑顔の奥には、どこか儚げで、今にも消え入りそうな心が隠されて
いるようであった。

「うに… みちるはね……… 伊集院メイと、ばいばいしに来たんだよ」
「ばいばいって………?」
「みちるはね、今日で、ここから居なくなっちゃうんだ。
 遠い遠い、お空の上に、帰ることにしたんだ。
 だから……… 伊集院メイとは、ばいばいなんだよ」
「だから、どうして、そんな所に行くのだっ!!!」

メイが、怒鳴るような声で、そう聞き返すと、みちるは、少しだけ表情を曇らせる。

「それはね……… 美凪が、夢から覚めたからだよ。
 伊集院メイも… 知ってるよね。
 みちるはね、美凪の夢の中で、生きていたんだよ。
 悲しいことばかり、いっぱいあった美凪がね… みちるを、ここに居させてくれたの」
「―――――」
「美凪はね、生まれてこれなかった、みちるのことを、ここに呼んでくれたんだ。
 それで、いつも二人で、一緒に遊んで… いろんなことをお話ししてね…」
「―――――」
「みちるは、美凪の夢の中の親友だったんだよ。
 美凪の、夢の中に住んでいる……… 妹だったんだよ。
 だからね……… 美凪が夢から覚めたから……… みちるも、ここから居なくなるの」

淡々と詩をつむぐように、みちるは、メイに語った。
メイは、その言葉に、下を向いたまま、何も答えようしなかった。

「だから… 伊集院メイとも、ばいばいしなきゃ、いけないんだよ………」
「―――――」
みちるが、諭すようにそう言っても、メイは、何も答えない。
「…伊集院メイ?」
そう言って、みちるが、メイの方に手を掛けたとき

「ひきょう者!!!」

メイが、絶叫するように、そう叫んだ。

☆☆☆

「伊集院メイ………」
メイは、小さな肩を小刻みに震わせながら、みちるを、睨みつけるような目で
見つめている。
「みちるは、ずるいのだ!! 美凪も、ずるいのだ!!!
 勝手に、どっかにいっちゃうなんて……… ずるいのだ!!!」
「―――――」
「どうして、メイは、美凪とみちると、いっしょに居られないのだ?
 どうして、一緒に遊べないのだ?
 メイだって… メイだって………
 美凪とみちるの、妹なのだーーーーーっ!!!」
「!!!」

メイの叫びに、みちるは、肩をびくっとさせる。

「メイはまだ… 美凪とみちると、いっしょに遊んでないのに………
 いっしょにシャボン玉したり、お星様見たりしてないのに………
 だったら……… 美凪が夢から覚めたっていうなら………
 それで、みちるが、どこかに帰らなきゃならないっていうなら………
 メイが夢を見るのだ!!!
 みちるが、ずっとここに居てくれる夢を見るのだ!!!」
「伊集院メイ……… どうして、そんな悲しいことを言うの?」
「ダメなのだ!! これは、メイの命令なのだ!!
 みちるは、メイの命令がきけぬと申すのかっ?
 メイが、居なくなるなと、命令しているのだっ!!!
 だから……… だから……………
 いなくなるなんて……… いなくなるなんて言うなっ!!!!!
 う… う…… うわああああああーーーん!!!」

自分の気持ちが、抑えきれなくなったメイは、感情のまま泣きじゃくった。
みちるが… 自分の姉が居なくなる。
どこか遠くへ行ってしまうというみちる。
自分が本当にしたかったことができなかった悔しさ。
それが、メイの心を強く締め付けていた。

そんなメイを、みちるは、暖かい笑顔で見つめると、メイの小さな身体を
優しく抱きしめてあげた。

「うう… う、うっ………」

みちるの胸の中で、メイが低く嗚咽している。
そんなメイを、みちるは両手で抱きしめて、ゆっくりと背中を撫でてあげた。

「ねえ、伊集院メイ………
 どうして、みちるたちと、一緒に遊びたいって思ったのかな?」

みちるが、静かに、そして優しい声で尋ねた。
その問いに、メイは、途切れ途切れの涙声で答える。

「おねえちゃんたちと、一緒に遊びたいのに、理由なんてないのだ………」
「そうか… そうだよね…… 一緒に遊びたい理由なんてないよね」
「でも! でも………
 メイは……… 美凪とみちると違う、お母さんから生まれたから…
 どうやって、いっしょに遊んでいいのか、分からなかったのだ………」
「―――――」
「だって………
 メイは、みちるが生まれてこなかったから、生まれてきたのだ。
 お父さんが、美凪とみちるのお母さんと別れたから………
 それでメイが、生まれてきたのだ………
 だから、メイは鬼っ子なのだっ!
 鬼っ子だから……… 本当は、美凪もみちるも……… メイのこと
 だいっ嫌いって、きっと、そう思っているのだ………」
「―――――」
「でも、でも、でも………
 メイは、美凪とみちると、なかよしに、なりたいのだっ!!
 おねえちゃんたちと、一緒に遊びたいのだっ!!
 おねえちゃんたちが、メイのこと、だいっ嫌いでも………
 メイは、おねえちゃんたちが、大好きなのだっ!!」
「―――――」
「メイは… メイは… やっぱり、わがままなのだ………
 わがままだから、そんなこと、お願いしたりするのだ………
 でも… それでもメイは……………」

抱きしめた胸の中で、さめざめと泣き続けるメイに、みちるは「にゃはは」と
笑ってみせた。

「何が、おかしいのだ…?」
「うに。だって伊集院メイって、ほんとーに、バカだなって思ったからさ」
「ううぅ……… ばかっていうななのだ………」
「ううん。ばかだよ。
 だって、伊集院メイは、何にも悪くないのに、そんなこと気にしてるんだもん」
「……………」
「ねえ? 伊集院メイも言ったよね。
 『ともだちになりたいのに、理由なんかない』って。
 そうなんだよ。
 ともだちになるのに、理由なんていらないんだよ。
 ただ、ちょっとの勇気と、素直な気持ちだけあれば、それでいいんだよ」
「…素直な気持ち?」
「そう………
 伊集院メイはね… みちるたちと、ともだちになるのに、すっごい無理を
 してたんだよ。
 でもね……… 本当は、そんなことしなくてもよかったんだよ。
 みちるたちはね………
 大切な親友から、お金とか、立派なプレゼントなんて、もらいたくないよ。
 ただ、楽しいときに一緒に笑ってくれて、悲しいときに一緒に泣いてくれる
 親友でいてくれるだけで、いいんだよ。
 だからね… 伊集院メイは、ただ素直に『おともだちになろう?』って
 言ってくれるだけで… それだけで、よかったんだよ」
「……………」
「だからね、伊集院メイ。
 みちるに、素直な気持ちを言って。
 お母さんが違うとか、美凪を助けたいとか、そんなこと考えないで。
 伊集院メイの、本当の気持ちを聞かせて…」

みちるは、メイの涙で濡れた頬を、拭うように優しく撫でる。
メイは、おずおずと、上目づかいに、みちるの目を見つめながら、自分の
本当の気持ちを、うち明けた。

「ともだちに、なってほしいのだ……… おねえちゃん………」
 
するとみちるは、にっこりと微笑むと、メイの頭の上に、ぽんっと手を置いて
「にゃはは… 伊集院メイは、みちるのこと、初めて“おねえちゃん”って
 呼んでくれたね」
「みちるは、メイの、おねえちゃんなのだ………」
「そうだよね。
 伊集院メイは、みちるの妹だよね」

そして、メイの頭を、さらりと撫で、満面の笑顔で、こう答えた。

「うん、ともだちになろう」
 
その言葉に、また感情が抑えきれなくなったメイは「えぐっ…… えぐっ……」と
また泣き出してしまった。

「ばかだねぇ… そんなことで、泣き出すなんて………」
「だから、メイのこと、ばかっていうななのだ………
 だって、だって………
 メイは… いっぱい、いーぱい悩んで………
 言いたかったのに……… ずっと……… 悩んでて………
 やっと……… やっと……… 言えたのだ………
 おねえちゃんに、ともだちになろうって、やっと言えたのだ………」
「伊集院メイ…」
「でも……… でも………
 言うのが遅かったのだ…………
 今日、やっと、おねえちゃんと、ともだちになれたのに………
 おねえちゃんは……… どっかに行っちゃうって………
 メイが……… メイが、臆病だったせいで………
 う… う……… うわあああああああああぁぁぁぁーーーーんっ!」

それは後悔だった。
やっと、ともだちになれたみちるは、これから、遠い空へ行ってしまうという。
大切なともだちが、居なくなろうとしている。
そう思っただけで、メイは、泣くことを堪えられなくなってしまったのだ。

わんわんと泣き続けるメイを見て、みちるは、自分のポケットから、ハンカチを
取り出すと、それを、涙でくしゃくしゃになったメイの顔にあてがい、優しく
涙を拭ってやった。

「うぅ……… えぐっ… えぐっ……」

それでも、さめざめと泣き続けるメイに、みちるは、困ったような表情で
「うに… 伊集院メイは、どうして泣いているの?」
「えぐっ、当たり前のことを……… 聞くななのだ………」
「みちるが、お空に帰っちゃうから?」
「……………」

メイは、無言で、こくりとうなずく。
すると、みちるは、にっこりと微笑み
「そうか… じゃあ、みちるは、すごーく嬉しいよ」
「? どうしてなのだ……?」
「だって……… みちるのことで、泣いてくれてるんだもん。
 みちると、ばいばいするのが悲しいって… 泣いてくれてるんだもん。
 そんな風に、泣いてくれるのは… 伊集院メイが、みちると親友だからだよ………」
「……………」
「でもね、伊集院メイ。
 みちるもね、伊集院メイとは、親友だって思っているから…
 親友だって思っているからね。
 伊集院メイが泣いてると、みちるまで悲しくなっちゃうんだ。
 悲しくて、悲しくて……… 悲しい思い出を持って、お空に帰ることになっちゃうんだ………」
「―――――」
「だからね………
 伊集院メイは、笑って。
 笑って、ばいばいして。
 美凪も、最後は、みちると笑ってばいばいしてくれた。
 だから、伊集院メイも、最後は笑って。
 美凪と……… 伊集院メイと……… 笑ってばいばいできたら………
 みちるは、幸せな思い出を持って、お空に帰れるから」

みちるは、笑顔のままだった。
しかし、その瞳に、涙があふれそうになっていることに、メイは気づいた。

すると……… メイは、パジャマの袖で、ごしごしと涙を拭うと
「わかったのだっ!」
と、笑顔になって、みちるに顔を向けた。

「おねえちゃんには、ずっと笑って欲しいから、メイも泣かないのだっ!」

健気に、そういって笑ってくれるメイを見て、みちるも、それに笑顔で返す。
そして、確認するように、こんなことを尋ねてみた。

「伊集院メイは、みちるの親友だよね?」
「その通りなのだっ!」
「みちるの、妹だよね?」
「当然なのだっ!」
「じゃあさ……… ばいばいする前に、みちると約束してくれないかな?」
「ん? 約束とな? メイは、おねえちゃんとの約束は、全部守るぞっ!」
「そうか……… 
 それじゃあさ……… 最初の約束。
 美凪とも、ともだちになってあげて」
「!………」
「無理…?」
「そんなことはないのだっ!
 みちるの親友は、メイの親友でもあるのだっ!
 だから… 美凪とも、ともだちになりたいと……… 思っているのだっ」
「そうか……… じゃあ、ふたつ目の約束」
「なんなりと、申してみよ」
「ずっと笑ってて。
 辛いこととか、苦しいことがあってもね………
 伊集院メイには、美凪が、そして、みちるが………
 ふたりの、おねえちゃんが、いつも見守ってくれているんだから。
 だから、離れていても、ずっと一緒なんだってこと、忘れないでほしい」
「………分かったのだ。おねえちゃんたちとメイは、いつも一緒なのだ…」
「うんっ! それとね………」
「なっ、まだあるのか?」
「うん……… でも、これで最後。
 最後の約束はね………
 伊集院メイも、夢から覚めて。
 そして…… 本当の自分に戻って」
「!!!」
「伊集院メイは、知らないと思うけどね………
 美凪とみちるのお母さん……… 夢から覚めたんだよ。
 そして美凪も、夢から覚めたの。
 だから……… 今度は、伊集院メイの番だよ。
 伊集院メイも……… 夢から覚めて。
 今日は無理でも……… 美凪と逢うまでは……… 夢から覚めて。
 そして、伊集院メイの本当の名前で、美凪とともだちになって」
「……………」
「…伊集院メイ?」
「………それは、どうすればいいのか、メイも分からないのだ………」
「そうか……… じゃあ、みちるが、伊集院メイの夢を覚ます、おまじないを
 してあげるよ」
「??? おまじない?」
「そう……… おまじない………」

そう言って、みちるは、メイの身体を、きゅっと抱きしめると、メイの耳元で
何かを呟いた。
「―――――」
「! そ、それって………」

不安げな顔で、メイはみちるの顔を見つめた。
そんなメイに、みちるは「にゃはは」と笑って
「これで、みちるとの約束は、全部おしまいだよ」
「う、うん………」
「それじゃ、最後に、みちるに、シャボン玉を見せて」
そう言って、みちるは、ストローとシャボン玉液の入った紙カップを、メイに手渡した。

「……………」
「うに? どうしたの?」

渡されたストローを持つ手が、震えていた。
これで、シャボン玉を飛ばしたときが、別れの時となる。
そう思うと、メイの心に、堪えきれない気持ちが、湧いてくるからだ。

しかし、メイはみちると約束した。
最後は、笑ってばいばいしよう……と。
これから旅だつみちるを、泣かせるようなことはしたくない。
そう思い、泣き出しそうな自分の気持ちを抑えて、メイは、ストローを口にくわえた。

「ふっ………」

自分でも驚くほど、優しく吹けた。
すると、ストローの先から、七色に光る小さなシャボン玉が現れた。

「ふうぅ………」

そのまま、ストローから息を送り続けると、シャボン玉がどんどん大きくなっていく。
そして……… シャボン玉は、ふわりとストローから離れ、空高く舞い上がった。

「おおぉ!! やった〜!!」
メイは、初めてシャボン玉が飛んだことに、喜びの声を上げる。
「メイも… メイも飛ばせたのだっ! おっきなシャボン玉、飛ばせたのだ」

すると、みちるも、満面の笑顔で
「うん……… すごくきれいだよ。ほんとうに…」
と、メイを讃えた。

そして………

「それじゃ……… あのシャボン玉が、消えないうちに………
 ばいばいするね」
「………うん」
「楽しい思い出を、ありがとう………」
「うん……… ばいばい。おねえちゃん」
「ばいばい………」
そして、みちるは最後に、メイの本当の名前を呼んで……… 空へと帰っていった。
みちるの居た場所から、徐々に温もりが消えていく。
それらを、メイはずっと笑顔で見送り続けた。

そして、ふと空を見上げる。
メイが飛ばしたシャボン玉が、月明かりに照らされ、七色に光り輝きながら、宙を舞っていた。
それを、しばらく、じっと見つめ続ける。
すると、そのシャボン玉の光は、さらに輝を増してきた。

「あれ? 変だな………」

輝いているのは、シャボン玉だけではなかった。
夜空の月も、星も、街灯も、みんな七色のプリズムみたいに輝きだした。

「メイは……… 変なのだ………
 だって……… 最後は………
 笑ってばいばいするって、おねえちゃんと、約束したのに………」

メイの目には、涙があふれていた。
拭っても、拭っても… 
後から涙があふれてきた。

「おねえちゃん……… ごめんなのだ………
 やっぱり……… これだけは無理みたいだから………
 だから……… 泣いてもいいよね?」

そしてメイは、声をあげて思いっきり泣いた。
こんなに泣いたことは、今まで無かった。
生きている上で、一番悲しいことは、大事な人が居なくなってしまうことだ。
そう、初めて気づいた。

泣き叫ぶ、メイの頭上には、あのシャボン玉が、いつまでも浮かんでいた。
まるで、それがみちるであるかのように………


(エピローグへつづく…)