六月二十六日。早朝。彼女と同じ時間に家を出る。
そして、偶然を装い、声をかける。
「おはよう。陽ノ下さん!」
するといつもの元気な声が返って来る。
「あ、おはよう。早いね、今日は。」
「昨日、早く寝たら、目が覚めちゃって。」
「へえ、そうなんだ。」
「あ、そういえば、昨日誕生日だったよね。一日遅れちゃったけど。お誕生日、おめでとう。」
「ありがとう。覚えていてくれたんだ。中、見ても良いかな?」
「どうぞ。」
「あっ、これガラスの靴だ。」
そう言う彼女の顔は、ちょっと渋くなっている気がする。
僕は、不安になって、尋ねる。
「ガラスの小物、好きだったよね?」
「うん。でもこれって、私にガラスの靴を履いても壊れないような、
おしとやかな女性になれって意味?」
僕は、慌ててもう一つのプレゼントを取出す。
「別にそういう意味は無いんだけど。それじゃ、もう一つもどうぞ。」
「もう一つ?わあ、これガラスの林檎じゃない。ありがとう。」
彼女は、今度こそ、満面の笑みを浮かべてくれる。
僕は、今日からまた頑張れるぞという気持ちになる。
「あ、またボーっとしてる。」
彼女はそんな僕に気付き、注意して来る。
僕は、それもまた心地いいと感じる。
「何でもない。さっ、早く学校へ行こう。たまには、朝練に参加しないとね。」
「うん、そうだね。じゃあ、学校まで競争だよ!」
と言って、彼女は我先に駆け出す。
「ずるいよ。」
僕は、彼女を追い駆ける。
まだしばらくは、こんな日が続くのを願う。
いつか、僕が新しい恋を見つけられるだろう、その日まで。
Fin