【思い出の・・・】
ひびきの高校は、やっぱりいいわね。
久しぶりに、光ちゃん達とも会えたし・・・
ほんの2週間だったけど、楽しかったな。
「何ボーっとしてるかな、華澄?」
という、良く聞き慣れた声とともに、後頭部を叩かれた。
「もう、痛いわね。いつのまに来たのよ、舞佳?」
「たった今よ。時間、ちょうどでしょ?」
と言いながら、私の腕時計を覗き込むふりをした。
そして、水を持って来たウェイターに要らないと手振りをすると、
「じゃ、早速行きましょうか?」
と、私の手を引き、席を立たせた。
「ちょっと待ちなさいよ。一体どこに行くのよ?」
そう、私の親友である九段下舞佳に呼出されて
近所の喫茶店で待合せていたんだけど、
どんな用件かを聞いていなかったのだ。
それでも、店の外へ出て、どんどん歩いて行く親友の後を
私は追いかけて行く。
舞佳は、ふと立ち止まると私の全身を眺めつつ、
「ふむ。言うの忘れてたけど。
スカートじゃなかったのは幸いだったわね。」
と囁くように言った。
「ちょっと、どういう事よ?」
私は聞き咎めた。
「ああ、気にしない。気にしない。」
いつもの調子で、笑い飛ばした。
「と・こ・ろ・で〜。さっき物思いにふけっていたのは、
もしかして恋煩いかしら〜?」
「な、何、言ってるのよ。そんな訳無いでしょう。」
「あ・ら〜。焦ってる、焦ってる〜。
そういえば、昨日まで我らが母校で教育実習してきたんだっけ?
これから教師になろうとしている身で、
教え子に手を出しちゃ、まずいんじゃないの〜?」
「だから、そんな事無いって、言ってるでしょう!」
「そうかな〜?
そう言えば、華澄の幼馴染も通ってたよね、確か?」
「ああ、光ちゃんの事?」
「と、もう一人。」
「! 確かにもう一人もいたわよ。
って何で知っているのよ、舞佳?」
「へへーん。伊達に配達のバイトは、やってないわよ〜ん。
御届け先は正確に、ってね。」
「ふーん。で、それがどうかした訳?」
「と・ぼ・け・ちゃって〜。この、この。」
「何よ、それ?」
「だから、7年ぶりに再会を果たして、
ときめいちゃったんでしょ?」
「あのね〜、そんな事、有る訳無いでしょう!
大体、五歳も年下なんだから。」
「それよ、それ。
そこで年を気にする事自体が、限りなく怪しいんだな〜。」
私は言い返す言葉に詰まった。
どう言おうと、舞佳に口喧嘩では勝てっこ無いのだ。
「おーっと、目的地についた。」
意外にも、私を敗北から救ったのは、相手の一言だった。
「・・・。ひびきの市VSきらめき市 対抗運動会?」
私は目の前に突出された、ちらしに唖然とした。
「そういうこと。そして、私達の出る競技は、これ。」
舞佳は、また一つ、私の目の前に突出した。
それは、あのはちまきだった。
そう、舞佳と組んで優勝した、高校生の時の。
「舞佳、これ。記念に飾ってあったの、持ってきたの?」
「ま、良いじゃないの。
たまには、高校生の時の気分になって、ね。
教育実習に行って、懐かしくなったでしょ? 華澄も。」
☆☆☆☆☆
パーン。
その音に弾かれて、私達は飛出した。
1、2、1、2、・・・
久しぶりに、二人で走る、風の中を。
そして、ゴールテープを切る。
私は、あの時の感動を思い出して、胸が熱くなった。
☆☆☆☆☆
ゴールして、すぐに舞佳は、運動会の大会本部へ向かった。
当然、はちまきを解いていないので、私も向かった。
「ちょっと、舞佳、どこ行くのよ。」
彼女は何も答えずに、ある少女の前に立った。
「メイ様、御言いつけ通り、二人三脚の部、優勝致しました。」
伊集院メイは、うなづくとこう言った。
「ご苦労なのだ。咲之進!」
「はっ、メイ様。九段下様、バイト代でございます。」
「確かに受取ったよ。それじゃまた宜しく。」
「ちょっと舞佳、これってバイトだったの?」
私は呆れていたが、尋ねずにはいられなかった。
「あれ、言ってなかったっけ?」
「一言も言ってないわよ。」
「華澄がそういうなら言ってなかったね。
華澄の記憶は確かだからなあ。」
「・・・。」
私は怒る気にもなれなかった。
「さて、それじゃあと。優勝商品でも貰って帰るとしましょうか。」
「? 種目別に優勝商品なんてあるの?」
「と・う・ぜ・ん。伊集院財閥がスポンサーよ。
商品は、ほい。華澄にあげるわよ〜ん。」
「え。いいの?二人で優勝したのに・・・。」
「私はバイト代さえ入ればいいの。
それは、私からのバースデープレゼント。おめでとさん。」
「! 覚えてたんだ。舞佳、ありがと。」
「それじゃ、今日は汗もかいた事だし、飲みに行こうか?」
「そうね。行きましょうか。」
「ところで、教育実習は楽しかった?」
「とっても楽しかったわよ。」
「やっぱり再会出来たから?」
「もう、またその話!?」
2000年10月9日。私のバースデー。
来年は、誰が祝ってくれるんだろうな・・・。