【絶対、みるのだ!】

 

「咲之進、準備は、出来たか?」

「はっ、万全でございます。」

「そうか、それなら、良いのだ。では、電話をここへ持て。」

「メイ様、既にここに。」

「うむ。」

ここは、きらめき市とひびきの市の間に位置する伊集院邸。

その中でも、一段と可愛い作りになっているという噂の

伊集院メイの居室である。

紅白歌合戦では、中間成績が集計されている頃の事である。

もちろん、件のメイは、そういった庶民のテレビ放送などは観ず、

着々と、ある準備に余念が無い状態だった。

 

☆☆☆

 

翌朝。全国的に、あまり天気が良くなく、ご来光を拝むには、

飛行機にでも乗って、上空から、と言う手段しか無い、という

状態の元旦が明けた。

そんな天気には関わらず、どの家庭でも、

つけてさえいれば賑やかなテレビ放送が流れている時間帯。

電話で呼び出された男子高校生が伊集院邸の門前に一人立っていた。

「寒いなぁ。30分も、待ち合わせの時間、過ぎてるんだけど・・・」

ぶつぶつ言いながら、その男子高校生は、自分の家くらいはありそうな

門から、中を覗き込もうとしたが、残念ながら、その相手の姿は見えない。

「普通なら、相手が晴れ着で家まで来て、そこから初詣なんだけど・・・」

「何をぶつぶつ言っておる。」

いつのまに出てきたのか、伊集院家専用リムジンの窓から、メイが顔を覗かせる。

「さっさと乗るのだ。」

と言われて、自分から乗る前に、黒服の男達に、押し込まれる。

抵抗しても無駄なので、とりあえず、その車の主人に質問をする。

「どこに行くんだい?」

「何も言わずに黙っていれば良いのだ。」

それがさも当然だと言うように、メイは答える。

「初詣じゃないの?」

メイが晴れ着じゃないので、さらに質問を重ねる。

「うむ。」

そこで、小首を傾げて思案すると、メイは、逆に質問をする。

「メイの晴れ着姿が見たいのだな?」

「いや、まあ、お正月だし、せっかくだから。」

「そうか。咲之進。」

「はっ。」

咲之進は、メイが命令するより早く、車を停車させると、ドアを開け、メイを下ろす。

そこで、いつのまにか現れた、派手なトラックが、リムジンの後に停車する。

「少し待っているのだ。」

そう言いながら、車中でぼけっとしている人物に、ウインクをすると、

メイは、トラックの裏手に回り、中に入る。

ライブなんかで一度舞台裏に引っ込んで早着替えするってのを

皆さんは知っているだろうか?

人によっては、長いだろって突っ込まれるくらい長いんだろうけど

この時のメイの早着替えの時間は、晴れ着なのに、一分もかからなかった。

余程の着付けのプロを雇っていると思われる。

やはり、伊集院財閥。ただの金持ちじゃない。

再び現れた、メイは、リムジンに乗る前に、軽やかに一ターンしてみせると

豪奢な後部座席に滑り込んだ。

「メイちゃん、とっても素敵な日本美人だね。」

ずっと車中にいた男子高校生は、彼女に、自分で言える最上の誉め言葉をかける。

「うむ。メイもそう思っているところなのだ。」

これもまた当然のように、メイは答えるが、頬の紅潮は隠せなかった。

 

☆☆☆☆☆

 

近くの神社で、初詣とおみくじといった恒例行事を済ませ、

晴れ着から洋服に着替えたメイ一行は、

ただ一人、行き先を知らない男子高校生を乗せて、西進した。

高速道路に乗って二時間、一般道を30分ほど走る。

「うむ。もうじきに、目的地に到着なのだ。」

「メイちゃん、一体、どこに?」

「着けば分かるのだ。それより、昼食を楽しみにしているのだ。」

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

それから5分ほどのち、静かにリムジンは停車した。

「メイちゃん、ここって、遊園地?」

「そうだ、貸切なのだ。」

「貸切は・・・」

「みなまで言わなくとも分かっているのだ。他のお客に悪いと言うのだろう?

 大丈夫なのだ。メイは、同じ失敗は繰り返さないのだ。

 ここは、まだオープン前の伊集院財閥の遊園地なのだ。

 明日、正式オープンなのだが、今日は試乗会と言うことで、

 特別に乗っても良いのだ。感謝するのだ。」

「メイちゃんが、オープン日をずらしたってことは?」

「メイはそんなことしないのだ。この遊園地の計画段階から、今日は試乗会なのだ。」

「それなら良いけど。」

「さあ、思う存分楽しむのだ!」

「うん。そうだな、そういう事なら。」

「まずは、メイの作ったランチボックスを楽しむのだ。

 さぞかし、お腹が空いたであろう?」

確かに、遊園地入口に大きく立てられている時計の文字盤は、13時30分を回っていた。

育ち盛りの男子高校生にとっては、ここまで待たされたら、

普通、倒れるぞってくらいの時間だった。

「さあ、召し上がるのだ。」

と言うのが早いか、駐車場にプレハブが建設される。

「メイちゃん、ランチボックスってお弁当だよね?」

「そうなのだ。とは言え、この伊集院メイが用意するランチボックスが

 庶民と同じスケールのものであるはずが無かろう?」

「まあ、そうだろうけど・・・」

という二人の会話が終わる頃には、カラオケボックス10個分くらいの建物が建っていた。

「これこそ、ランチボックスなのだ。さあ、中に入って、存分に食すのだ。」

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「満足したであろう?」

「・・・・・・。」

「そうか、何も言えないほど、満足なのだな。」

メイは、一人納得すると、左手をさっとあげる。

駐車場のランチボックスと言う名のプレハブレストランは、

あっというまにその存在を無にした。

「うむ。では、順番に全て乗るのだ。全部乗らなければ、試乗会にならぬのだからな。」

「メイちゃん、一体、いくつあるんだい?」

入口から見える乗り物だけで、30は、ありそうだと思いつつ、質問をする。

「確か、60・・・。」

「メイ様、66でございます。」

咲之進が補足する。

「66?」

「どうだ、乗り応えがあるだろう?」

「ちょっと多・・・」

「さあ、行くのだ。」

メイは、最後まで言わせず手を引っ張り走り出した。

「ちょっと、メイちゃん待って。」

そのまま、引き摺られるのであった。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「メイちゃん、そろそろ一休みしない?」

「そうであるな、メイもそう言おうと思っていたのだ。」

さすがに、二人共、息を切らしている。

他にお客が居ないのだから、待ち時間に休憩も出来ない訳だ。

「ところで、今日は、誰が機械を動かしてるの?」

「安心するのだ。別に私設軍隊が動いている訳では無く、明日から動かすプロなのだ。」

「ということは、俺達の為に、わざわざ居てくれる訳だ。」

「気を回さずとも良いのだ。皆、試乗会という仕事をこなしているだけなのだ。」

「でも、俺達だけでなく、もっと別の人達も居れば、

 試乗会にかかる時間は短く出来るんじゃない?」

「良いのだ。この遊園地は、メイが企画したのだ。

 だから乗り心地もメイが判断しなくてはならないのだ。」

「えっ、メイちゃんが?」

「誤解するでないぞ。別に貴様と二人で試乗する為に企画を立ち上げた訳ではないのだ。」

「なんか、目が泳いでない?」

「そんな事は無いのだ。もう休憩は終わるのだ。まだ半分残っているのだからな。」

明らかに、これ以上喋ると、ボロが出そうだから、打ち切ったと言う感じで

メイは、そそくさと立ち上がると、また手を引っ張り走り出した。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「大分、暗くなって来たな。あといくつ残ってるんだろ?」

「乗り終えたのは、電飾が消えているのだ。だから、あと一つなのだ。」

そう言って、メイは、中央にある大きな観覧車を指差す。

「貴様は、高い所は大丈夫であろう?」

「これまで散々乗ってきたと思うんだけど?」

質問を質問で返すと、貴様と呼ばれた男子高校生は、ひとりごちた。

(50mフリーフォールとか、ホントにフリーだったのには参ったぞ。

 よく死ななかったなぁ、機械じゃなくて、ただの落とし穴。

 しかも、命綱も無いし・・・)

「最後の観覧車は、100mの超大型観覧車なのだ。

 しかも・・・。まあ乗ってみれば分かるのだ。」

メイは、小悪魔的に笑みを浮かべる。

その辺がかわいらしいとも思える、男子高校生だったが、

すぐにそれを否定した。

「げっ?!全面、透明なのか、これ?」

「スリル満点であろう?さあ、さっさと乗るのだ。」

さすがに怯んでいたが、そんな事は関係無く、黒服達に押し込まれる。

観覧車は、ゆっくりと回転し、二人も上に上がっていく。

「美しい夜景であろう?」

メイは、余裕で周りを見回す。

「確かに綺麗だなぁ。街の明かりは見えないけど。」

「まあ、こんな山奥に、民家など一軒も無いのだ。だから選んだのだ。」

「どうして、こんな寂しい所に?」

「この観覧車が一番高い所に有って、地上の明かりが無く、全面透明なのだ。

 何が期待できるかわかるであろう?」

「星?」

「そうなのだ。メイ達は、満天の星空にいるのと同じなのだ。」

「だな。どちらかというと空じゃなくて、星の大海にいるって感じだけど。」

「ロマンチックであろう?これを観られるのは、メイと貴様が最初なのだ。

 感謝するのだ。」

「ああ、そうだな。心に深く刻まれる思い出になるよ。」

「そう言ってくれて良かったのだ。しばらく、この星の海を楽しむのだ。」

メイのその言葉を最後に、二人は、その満天の星を無言で楽しんだ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

ここは、メイの寝室。メイは、眠る寸前である。

「咲之進、最後の仕上げは?」

「はっ、メイ様、終わっております。」

「うむ。メイの写真もちゃんと仕掛けてきたか?」

「ええ、あの方の枕の下に。」

「そうか。メイも、アイツの写真は、枕の下に置いたのだ。」

「では、良い夢を御覧頂けますように。」

「咲之進、ありがとうなのだ。おやすみなのだ。」

咲之進は、音も無く静かに退室する。

メイも、ベッドに潜り込んだ。

(今日一日、アイツとずっと一緒にいたのだ。

 しかもたっぷりと強烈なインパクトを記憶に刻み込んだのだ。

 そして、最後にアイツの写真も枕の下に仕込んだのだ。

 これで、メイもアイツも、初夢の中に、お互いが登場するのだ。

 間違い無いのだ。

 絶対に、絶対に、アイツと一緒の初夢をみるのだ。)

心の中でそう呟き、メイは、

「おやすみなさい」

と、誰に言うでもなく、声をあげると、瞳を閉じた。

 

その夜、誰よりも幸せな夢を、メイはきっと見ることだろう。

いや、そうではない。絶対、みるのだ!