【恋人がサンタクロース】
司時流「ところで、みのりちゃんは、『恋人がサンタクロース』って歌は知ってる?」
みのり「っていうか、いきなり何でそんな質問するんですか?」
司時流「まあ、そんなことは置いといて」
みのり「だから、あんまり読んでくれる人は居ないとは思いますが、
いきなりのその質問は、数少ない読者の人に失礼だとは思いませんか?」
司時流「そんなに、読者の少ないって事を強調しなくても(T-T)」
みのり「嘘泣きは止めて下さいよ、時流先輩。」
司時流「で、最初の質問に答えてよ。」
みのり「・・・・・・。あ、もうこんな時間、パーティーに遅れちゃう。」
司時流「一寸待てーぇ。いきなり、前説から、本編に入るなぁ!」
☆☆☆☆☆☆☆
「ふぅ。巻いた、巻いた。さて、そろそろ本当に、虹野先輩の家に行かないと。」
そういうと、みのりは駆け出した。折りしも、今日は、クリスマスイブ。17時と言う所である。
「おっそいなぁ、みのりちゃん。どうしたんだろぅ?」
そう言いながらも、準備に余念がない女の子が一人。ここは、虹野沙希の家、そして台所である。
普段なら、まだ部活動をやっている所だが、今日は、パーティーの為に、早々に帰宅していた。
「早く来てくれないと、料理が間に合わなくなっちゃう。」
セリフは焦っている感じがしないでもないが、これから始まるパーティーの事を考えると
笑顔がこぼれてしまっていることが、もし家族が周りに居たら、バレバレだっただろう。
今夜は、沙希以外の家族全員は、レストランで食事だったので、そんな心配は要らなかったが。
ピンポーン!
と、ほんのちょっと料理の準備に余裕が出来た所で、誰かの訪問を知らせる呼び鈴が鳴った。
「はいはーい、ちょっとお待ちくださーい!」
台所からだと、実際は、玄関の外までは聞こえないと思うのだけど、
それでも大きな声で、沙希は、まだ誰だか分からない、玄関の向こうの人物に答えた。
カチャリ。
と、小さな音を立てて、玄関の鍵を開けると、それが分かったのか、外から扉が開かれる。
顔より先に、声が、相手が誰かを沙希に分からせた。
「すみません、虹野先輩。ちょっと遅くなっちゃいました。」
「大丈夫よ。それより、早くしましょう。」
二人で台所へ向かう。
「みのりちゃん、買って来てくれたかな?」
「はい。でも、珍しいですね、虹野先輩が、買い忘れするなんて。」
「そんな事無いよ。私だって、うっかりするよ。」
「そうですか?」
と言いつつも、みのりは、沙希の頬がいつもより紅潮しているのに気付いた。
「あの、もしかして、熱、あるんじゃないですか?」
「えっ。そ、そんな事無いよ。」
「そうですか?ちょっと・・・」
と言いながら、みのりは、沙希の額に手を当てる。
「虹野先輩、ちょっと熱あるみたいですよ。大丈夫ですか?」
「平気、平気。このくらい何でもないよ。」
「でも、一応、体温測った方が・・・」
「大丈夫だって。それより、パーティーの準備、急がないと間に合わなくなっちゃう。」
そういって、心配するみのりを引き離すと、沙希は料理を再開する。
みのりは、心配な表情を浮かべていたが、やがて、一緒に料理をし始めた。
ふっと、みのりが台所のテーブルの上に置いてある時計に目をやる。
18時45分、パーティー開始まで、あと15分である。
「あと15分ですよ。そろそろ、料理を並べ始めませんか?」
と、促す言葉を沙希にかけるが、返事がない。
みのりは、今度は、沙希の方へと目をやる。
沙希が、手を止めて、はあはあと息をつき、苦しそうにしていた。
「虹野先輩!」
そう言うと、みのりは、沙希へ駆け寄った。
☆☆☆☆☆☆☆
「今日は、すいませんでした。」
みのりは、集まってくれた、サッカー部の面々に、詫びていた。
さすがに全員と言うわけにはいかないが、今年活躍したメンバーを沙希の家に招待して
クリスマスパーティーを行なうことになっていたのだった。
しかし、沙希が熱で寝込んでしまった為、結局中止となってしまった。
そこで、料理を小分けにして、来てくれた者に配るということを、みのりがやっていたのだった。
大方のメンバーが帰っていくと、みのりは、沙希のベッドの横に座り込んだ。
「ごめんね、みのりちゃん。」
ベッドの中から、沙希が弱々しく、声をかける。
「良いんですよ、そんなこと。虹野先輩の体の方が大事です。」
「ありがとう。」
みのりは、沙希にこれ以上、気を使わせないように、話題を変えた。
「それより、あの16番の先輩、呼んでいたのに、未だに来る気配がありませんね。」
すると、沙希は、熱の為じゃなく、頬を紅潮させた。
「どうしたんですか、先輩。また、熱が?」
「そ、そうじゃないの。」
さらに、沙希の顔は、真っ赤になった。
「?」
みのりは、小首を傾げた。
沙希は、今まで、みのりの方を見ていたが、ちょっと視線を逸らせて、言った。
「みのりちゃんは、『恋人がサンタクロース』って歌、知ってる?」
「えっ?いえ、その、曲名ぐらいは知ってますけど。」
「そお。じゃあ、サンタの存在は信じる?」
「居たら良いなあと思いますけど・・・。最近は、姿を見せてくれないと言うか・・・。」
「あのね、私もそんなに詳しい訳じゃないんだけど、その歌では・・・」
みのりは、沙希の方を覗き込むようにして見る。
「その歌では、サンタを信じない女の子が、先輩のお姉さんに、『サンタは居るわよ。
サンタは、午後8時すぎにあらわれる。大人になったらわかるわよ』って言われるの。でね・・・」
ピンポーン!
と、そこで、訪問を告げる呼び鈴が鳴った。
みのりが、沙希のベッドの時計を見る。午後8時を10分ほど過ぎた所である。
沙希は、顔を見られないように、ベッドに潜り込んだ。
☆☆☆☆☆☆☆
みのりは、16番の先輩に、きつく「手を出したら承知しませんよ。」と釘をさすと
沙希の家を後にした。
「結局、あてられちゃったなぁ。」
と、ぼやきながら、帰途についた。
「ケーキも食べられなかったし」
と、ケーキ屋の前で、トナカイの格好をした売り子が目に入る。
みのりは、そのトナカイの背中に声をかけた。
「まだ、ケーキありますか?」
赤鼻のトナカイは、ビクっとして振り返ると、目の前の女の子を見つめながら
「二個有るには有るけど、既に売約済みで。すいません。」
と、言った。トナカイが二個と言いながら、チラッと見た方に、みのりが目をやると
確かに、ショートケーキが二個あった。大きなイチゴが、珍しく三個ずつ乗っている。
大抵、一個ずつだと言うのに。
みのりは、今年はケーキさえ一つも食べられないのかとがっくり肩を落として、通り過ぎた。
後から、トナカイの着ぐるみのくぐもった声が聞こえる。
「すいません。サンタのやつがどうしても残しておいてくれって言うからさぁ・・・」
☆☆☆☆☆☆☆
時計を見る。20時50分である。
ここは、みのりの自室。部屋には、ちょっとしたクリスマスの飾りと、靴下が置かれている。
サンタは、最近、あらわれてくれないが、やっぱり期待はしているのである。
「・・・・・・」
ベッドに横になり、考えをめぐらしている。
よくよく考えてみれば、自分が、あの言葉を一言も発していない事に気付き、
電話して、その言葉だけでも、言っておきたいと思うのだ。
電話を手にとり、番号を押そうとした、まさにその時。
その電話の呼び出し音が、室内に響いた。
「ぷるるるるるるる・・・」
みのりは、通話ボタンを押して、受話器を耳にあてた。
「もしもし」
「もしもし、ちょっと外に出てきてくれないかな?」
みのりは、今電話をかけようと思っていた相手の声だとわかった。
受話器を持ったまま、窓をあけるが、姿は見えない。
電話を切ると、玄関を飛び出した。
そこには、サンタがいた。正確には、格好をしているだけだが。
「Merrry Christmas!」
サンタはそう言うと、付け髭の下から、ニッと笑い、ケーキ屋の箱をみのりに手渡す。
「大きなイチゴが三つも乗ってるんだ」
みのりは、ぷっと吹き出すと、自分のサンタに、こう声をかけた。今日、初めての言葉を。
「Merry Christmas!」