椋ちゃんと岡崎から逃げるように、杏は学校から走り去っていった。

すぐに杏の後を追いかけたが、角を曲がったところで見失ってしまった。

そして更に悪いことに、雨が降り出してきた。くっ、こんな時に!

家に帰っていれば問題ない・・・だけど、杏はまだ外にいる気がした。

だから必死で捜した。

そして・・・野原の真ん中で一人、雨に打たれている杏がいた・・・。

 

建造「・・・杏・・・。」

杏「・・・来ないで。」

建造「・・・。」

杏「それ以上・・・近づかないで・・・。」

杏「・・・お願い・・・だから・・・。」

足を・・・止めるしかなかった・・・。

杏「・・・どうして・・・ここに来たの?」

建造「・・・。」

杏「まだ・・・創立者祭終わってないでしょ・・・。」

建造「お前がいないのに、一人で回ったってしょうがないだろ。」

杏「・・・別に・・・気にしなくていいのに・・・。」

建造「無茶言うなよ・・・。」

杏「あたしのことなんて・・・ほっとけばいいのに・・・。」

建造「・・・ほっとけるかよ・・・。」

杏「わかってる・・・つもりだったのに・・・
  あいつ達の仲が良くなってくの・・・見てるのが辛いの・・・
  『恋人』になってく二人のそばにいるのが辛いのよ・・・
  あたしってヤな女よね・・・自分で付き合えとか言ってたのに・・・
  椋がね、あいつとキスしたこと教えてくれたの・・・
  お姉ちゃんありがとう・・・って言いながら嬉しそうにさ・・・
  最初は笑って聞いていた。良かったねって、椋に言ってあげられた
  でも自分の部屋に戻ったら急に胸が苦しくなって・・・痛くなって・・・
  そうだよね・・・別におかしいことじゃないもんね・・・
  付き合ってるんだもん・・・そういうこと・・・して当たり前よね・・・
  あれが・・・初めてってわけでも・・・ないし・・・さ
  でも・・・気が付いたら涙が出てた・・・
  止まらなくって・・・
  何度も・・・何度も何度も自分に言い聞かせても、それでも止まらなくって・・・
  もう・・・あいつ達のこと・・・普通に見てられなくって・・・
  ・・・遅かったのよ・・・
  ・・・気づくのも・・・ごまかすのも・・・
  ・・・怖かった・・・
  告白するのが怖かった・・・
  あたしは・・・告白して・・・フラれたら、もう友達としても話できないんじゃないかって・・・
  ・・・あいつの側にいられなくなるかもって考えちゃって・・・
  それならずっと友達のままでいようと・・・
  その方が傷つかずにすむって・・・そう思ったから・・・
  だから自分の気持ちを押し込めて・・・
  ・・・後悔して・・・
  あはは・・・馬鹿よね・・・
  自分で決めたことなのに・・・自分で選んだことなのに・・・後悔しかしてない・・・
  あたしはね・・・すごくズルイのっ・・・
  あいつと椋をくっつけようとしながら・・・
  口では椋に頑張れって言っときながらっ・・・
  本当はうまくいってほしくないってっ・・・!
  フラれてくれたらいいのにって・・・!
  心の中じゃそんなこと考えてたのッ!
  あたし・・・自分が嫌いっ!
  世話を焼いてるフリをして、自分のことしか考えてない・・・
  自分が傷つきたくないくせに、人が傷つくことを望んで・・・
  そんな自分が嫌いなのっ!」

建造「杏っ・・・」

ぎゅっ・・・

杏「っ・・・
  どう・・・して・・・?」

建造「・・・」

杏「あんた・・・なにしてるか・・・わかってるの・・・?」

建造「おまえは・・・何をされているのかわかっているんだろ・・・」

杏「・・・
  頑張って・・・忘れようって決めたのに・・・
  なのに・・・
  今度はあんたが・・・あたしに優しくする・・・」

建造「・・・」

杏「・・・ごめんなさい・・・」

建造「・・・え?・・・」

杏「・・・ごめんなさい・・・あたし・・・朋也のことが好き・・・」

建造「・・・知ってる。」

杏「でも・・・・・・建造のことも好きなの・・・」

建造「え・・・。」

杏「だから・・・もうあたしに優しくしないで・・・
  これ以上・・・優しくされちゃ・・・もう耐えらんなくなるよ・・・」

建造「お・・・俺はお前のこと・・・」

杏「やめてっ・・・!これ以上あたしをみじめな気持ちにしないでっ!」

建造「杏・・・。」

杏「あたしは・・・朋也のことを好きでいながら、建造のことも好きになった最低な女なのよ?!」

建造「・・・」

杏「朋也がダメだからって、建造に乗り換えるなんて・・・出来るわけないじゃない・・・。」

建造「・・・っ」

杏「・・・
  ばいばい・・・」

それ以降、杏は俺の前に姿を現さなくなった。

俺は元々この学校の生徒ではないため、校内をむやみに歩き回るわけにもいかず、

時だけが無情にも過ぎていった・・・。

そんなある日・・・

 

朋也「よう、鈍感。」

建造「・・・なんだよ。」

朋也「否定しないんだな。」

建造「俺も・・・あんたと変わらなかった。杏の気持ちに気づいてやれなかった。ホント、大馬鹿だよな。」

朋也「全くだ。」

建造「・・・で、わざわざ喧嘩を売りにに来たのか。」

朋也「そんなわけないだろ。椋が話をしたいって。」

建造「椋ちゃんが?」

椋「お忙しいところ、すいません。」

建造「いや・・・忙しくはないからいいけど・・・。」

椋「今日は、お姉ちゃんに会いに来たんですか?」

建造「・・・ああ。でも、避けられてるみたいで、もう何日も会ってない。」

椋「そうですか・・・。」

建造「・・・。」

椋「私・・・お姉ちゃんが、朋也くんのことを好きなの、知ってました。」

建造「え・・・。」

椋「知ってて・・・お姉ちゃんに相談したんです。」

建造「なんで・・・。」

椋「お姉ちゃんが断れないの、わかってましたから。」

建造「・・・。」

椋「私、そんなずるい女の子なんです。
  でも、朋也くんのことは本当に好きだったから、お姉ちゃんにも負けたくなかったんです。」

建造「それで急に大胆な行動をとったりしてたのか・・・。」

椋「はい・・・。」

建造「・・・。」

椋「最近のお姉ちゃん・・・ずっと元気がないんです。
  もちろん、私のせいなのはわかってます。でも・・・それだけじゃないと思うんです。」

建造「・・・。」

椋「お姉ちゃんは・・・迷ってるんです。それは、建造さんもわかってるんじゃないですか?」

建造「・・・ああ。」

椋「建造さんは・・・お姉ちゃんをどう思ってますか?」

建造「どうって・・・」

椋「お姉ちゃんは真剣に悩んでます。
  だから、もし本気でないのなら・・・もう会いに来ないで欲しいんです。
  これ以上、お姉ちゃんを苦しめないで欲しいんです。
  でも、もし本気でお姉ちゃんのことを好きなら・・・お姉ちゃんを支えて欲しいんです。」

建造「・・・。」

椋「明日また、ここで待ってます。そのときに建造さんの答え・・・聞かせてください。」

建造「俺の答えは・・・。」

そして翌日、昨日と同じ場所に椋ちゃんはいた。

建造「ごめん、待たせたかな?」

椋(ふるふる)

建造「そう、良かった。」

椋「・・・。」

建造「それで、昨日の答えだけど・・・聞いてくれるか?」

椋(こくっ)

建造「・・・杏が岡崎のことを好きなのは知ってた。
    でも、岡崎には椋ちゃんがいたから、
    それで杏が辛い思いをするんじゃないかって俺は心配したんだ。
    でも・・・本当に辛い思いをさせてたのは・・・俺だったんだよな。
    俺の存在が、杏を悩ませているなんて思いもしなかった。
    全く・・・岡崎のことを鈍感だなんて、よく言えたもんだよ。
    自分だって、全然杏の気持ちをわかってなかった。
    こんなんじゃ、椋ちゃんが心配するのも当然だよな・・・。」

椋「・・・。」

建造「あれから真剣に考えたんだけど・・・俺は、杏の前からいなくなった方がいいんだと思う。
    そうすれば、杏があんなにも悩むことはないんだから。」

椋「・・・。」

建造「・・・でもさ、やっぱり放っておけないんだよ、杏のこと。
    あいつ、気が強そうに見えるけど、本当はすごく弱いから。
    一人で立ち直れるほど、あいつは強くないから。」

椋「・・・。」

建造「だから・・・
   そんな杏を・・・俺は支えてやりたい。」

その瞬間、椋ちゃんが抱きついてきた。

建造「え?!ち、ちょっと椋ちゃん、それはまずいって。(^^;;」

椋「ありがとう・・・建造・・・。」

今・・・なんて言った・・・?

なんて・・・呼ばれた・・・?

誰の・・・声だった・・・?

杏「・・・好き・・・」

建造「・・・おまえ・・・まさか・・・」

杏「あたし・・・建造が好き・・・」

建造「きょ・・・杏?!な・・・え?どうして?!って、髪は・・・?!」

そう、あんなに長かった髪はバッサリと切られていた。

そのせいで、椋ちゃんと見間違えたわけだけど、なんでまた・・・。

杏「・・・逃げるなって・・・」

建造「え・・・?」

杏「椋が逃げるなって・・・」

建造「椋ちゃん・・・が?」

杏「もし、あたしが本当に建造のことを好きなんだったら逃げちゃダメだって・・・怒られちゃった・・・。
  同じ人を好きになった時から、どちらかが傷つくのはわかってた・・・。
  だから・・・椋が笑っていられるのなら、あたしは我慢しようと思った・・・。
  告白してふられるよりは・・・。そっちの方がマシだと思ったから・・・。
  ふられて傷つくよりは、我慢できると思ったから・・・。
  でも・・・
  ・・・ダメだった・・・。
  自分の気持ちに背中を向けたまま前に進めなかった。
  それどころか、立ち止まってることさえ出来なくて・・・
  逃げ出すしかなくて・・・
  ヘコんでた・・・。
  そんなとき、アンタが元気を分けてくれた。凄く嬉しかった・・・。
  でも、自分の今の気持ちに気づいたとき、あたしはまたそこから逃げようとした・・・
  そしたら椋に怒られた。
  また逃げるのって。
  同じ落ち込むなら、ふられて落ち込めって・・・。
  だから・・・今度は逃げないって決めたの。」

建造「杏・・・。」

杏「建造・・・あなたが・・・好きです。」

建造「・・・岡崎じゃなくて・・・俺でいいのか?」

杏「建造じゃなきゃダメなの・・・。」

建造「・・・そっか。」

杏「そうよ。」

建造「それじゃあ・・・こんな奴だけど、よろしくな。」

杏「・・・うん!」

 

それから・・・

建造「それにしても、本当にバッサリと切っちゃったもんだなぁ・・・。」

杏「あの時は、あんたの本心を聞き出すことしか考えてなかったからね。」

建造「全く・・・俺は2人にまんまと騙されたわけだ。」

杏「髪型が変わっただけで騙されるあんたが悪いのよ。・・・。」

建造「・・・ん?どうした?」

杏「・・・なんか、むかついてきた。」

建造「なんでだよ・・・。(^^;;」

杏「だって・・・あたしと椋を見分けられなかったのかと思うと・・・。」

建造「・・・あの時は一つのことで頭が一杯だったんだよ。」

杏「へぇ〜、何で頭が一杯だったのかなぁ〜?(^^)」

建造「・・・わかってるくせに聞くなよ。」

杏「ふふっ、照れない照れない♪」

がしっ!

建造「こ、こら!腕に抱きつくな!」

杏「いいじゃない、減るもんじゃないしー。」

建造「全く・・・。」

杏「・・・ねえ。」

建造「ん?」

杏「髪・・・やっぱり長い方が良かった?」

建造「・・・。」

杏「ねぇってばぁ。」

建造「俺は・・・今くらいが一番かわいいと思うぞ。」

杏「・・・え。(〃〃)」

建造「ふふっ、照れない照れない♪」

杏「・・・もう!」

建造「はははっ。」

杏「ところで、さっきから気になってたんだけど・・・。」

建造「ん?ああ、この花か?もちろん杏にだぞ。柄じゃないとは思ったんだけどな。」

杏「そんなことないわよ、ありがとう・・・クチナシの花ね。」

建造「へぇ、よく知ってるな。」

杏「あたしだってそのくらい知ってるわよ。」

建造「最初は、杏の名前に合わせて杏子にしようかと思ったんだけど・・・。」

杏「それはちょっと・・・。」

建造「・・・だよなぁ。」

建造「それで、店員さんに聞いたら、絶対クチナシがいいって言われて。」

杏「ふ〜ん・・・。」

建造「・・・杏?」

杏「ねぇ・・・このクチナシ、本当にあたしが受け取っていいんだよね?」

建造「もちろん。そのために買ったんだし。」

杏「本気にするわよ?」

建造「あ?ああ・・・。」

杏「建造・・・。」

建造「ん?」

杏「ずっと・・・好きだからねっ♪」

杏(クチナシの花を異性に贈るのは・・・求婚の意味なんだからね!)

  

HOME